備忘録のようなもの

思うことのあれこれを記録しておくところ

壱劇屋「supermarket!!!」観劇雑感

 ずっと行きたかった壱劇屋の公演。行ける日を待ってたらいつまでも行けないぞ、と思い立ち有給を取って観てきました。久しぶりに降り立った大阪日本橋が、相変わらず「人が多い」「道路が汚い」「誰も避けてくれない」の出不精殺しの街。案の定ビビり散らかすわたし。

 インディペンデントシアター2nd、リニューアルしたらしくてきれいでした。座席も映画館っぽい。客席の階段歩くと揺れるのが小劇場感あって好きだな。HEPホールもめっちゃ揺れるんよな。

 前説に大熊さんが出てきてグッズの告知してて、ほんと「テレビで見た人~~~」って思った。見れば見るほど吉川太郎に似てて笑いそうになった。でも、話してるのを聞きながら、あの子ら(お察し)が慕っていじりたくなるのもわかるなぁ、と思ったり。

 と、思わずつぶやいてしまったくらい楽しかったので、雑感を残します。まあ大体ネタバレになるんで、その辺適当にどうにかしてもらえるとうれしいです。台本買ったんでほんとはセリフ引用したいけど、まあさすがにそれはアレなのでやめておきます。

 

壱劇屋本公演「supermarket!!!」

2022年11月5日(土)インディペンデントシアター2nd:13時公演

ToTo」サカイヒロト

 一番しんどかった話が冒頭にあったからどうしようかと思った。急に水底に突き落とされたみたいに。見ているのがつらくて、苦しくて、かなしくなった。でも、菊池はおそらく狂人なんかじゃなくて、どこにでもいる人のひとりでしかないんだろうな、と思った。もしかしたら、わたしだったかもしれない。そんなふうに思いながら、見たくないのに見てしまう。心を搔き乱されてしまうのに、目が離せなくて引き込まれた。

 菊池ってもしかして魚なのかな、なんて思いながら見てた。ほんとは魚なのに、人間として生きようとしてうまくできないのかな。呼吸もエラじゃないし。そりゃ息苦しいよな、って思ってたけど、菊池は魚じゃなかった(そりゃそうやろ)

 

「万引きハンターやすえ」ピンク地底人3号

 出オチなんだよな~~~、やすえ。笑わせる気しかないもん。でもそれが不快じゃないというか、やすえは出オチなのにやすえが言ってることはもっと意味がわからないんだもんな。ただ、やすえは真剣なの。だから余計におもしろいの。こいつなに言ってんだって思うけど、なに言ってんだって言わせる隙を与えないのね。佇まいがほんとかっこいいの。余計言いづらいよね、なに言ってんだって。店長も絶妙な顔をしていて、それがまたおもしろい。ずっと笑ってた。さすがにオチは「誰やねん!!!」ってなったけど。今後キャベツを見たらやすえがちらつくんだろうな。そういう呪い。

 

「ボーイ・ミーツ・魚」サリngROCK

 2時間半の間にちょこちょこ泣いたうちの1シーン。アルバイトと地縛霊のやりとりが楽しくて、アルバイトの山下くんがうっかり返事をしちゃうお人よし感と、幽霊の後藤さんの天真爛漫な感じがずっとあたたかくて穏やかな気持ちになった。高校生とおじさん(おにいさんにしか見えないけど高校生から見ればおじさんって意味?)の交流というのもそうだけど、なによりその交流を経て、「まあそんなもん」みたいな感じで過ごしてる山下くんが自分にもこんな夢が持てるのかな、掴めるのかな、と希望を持って終わるラストがすごく好きだったし、後藤さんのセリフにボロボロ泣いた。めっちゃいいこと言うし、いい表情なんだよな。ラストシーン、思い出しただけで泣ける。泣きそうだから次の話しよ。

 

「穴」山口茜

 穴に落ちたクレーマーとスタッフ(と常連客)のやりとり。現代社会の縮図かと思うリアリティ。わたしが常々思う「フィクションの中にほんとうがある」のひとつだな、と思った。台本に大熊さんが「Twitterみたいやな」と書いていて、その通りやな~って。みんなそれぞれ思うところがあって、でもその場をやり過ごしたい部分もある。中にはマジレスやクソリプみたなんもある。それって会話なん? って感じだけど、会話として一応成立しちゃうんだから世も末だな。いや、コネクトのスタッフはいい人だけど。それが幸いだったよなぁ、っていうか、だからクレーマーがやってくるわけだけど。なんとなくそういう社会現象のようなものを自然と考えてしまう作品だった。現実的で好きだった。

 

「もしも悪い人が来たら」福谷圭祐

 実は一番気になっていた脚本が福谷さん。某番組で物議を醸しまくった「大暴力」の作者がどんな感じで壱劇屋に脚本を出すのか、興味ないわけないやん。っていうか福谷さんのイメージ「大暴力」ってどないやねん。と思って見たら、まあ泣いた。べーべー泣いた。特に強盗と店主・藤原が取っ組み合いというか、競り合ってるところ。ずっと藤原が小言というか八つ当たりをしていて、それが本当に切実でつらい。ほんとうに割に合わない。そりゃ愚痴も言う。娘のたまちゃんも、なんだかんだお父さんが放っておけないんだろうな~~~と思うと愛おしくてしゃあない。かわいすぎる、この親子。こんなかわいいお父さん欲しかった! 福谷さんこんな話も書くんか~~~~つよ~~~~~(大の字)

 

「M九〇星雲より」水鳥川岳良

 「穴」で交流があった宇宙人たろうくんとクレーマー・飯島が再び。というか、宇宙人という大きなテーマに対して対象をクレーマーにするっていうのがおもしろかった。ある意味「穴」と同じ世界観というか、現実味というか。やっぱり同じように「クレーム」について考えてしまうし、飯島みたいな人はきっとどこにでもいて、宇宙人呼ばわりされたり邪険にされたりしてる。もっと身近に宇宙人がいても、人間はより理解できない人を宇宙人と呼ぶ。実際、自分が理解できなければ相手のことを平気で「変わってる」って言えちゃうんだよな。飯島、なんか憎めないんだよな。しあわせになって欲しい。

 

「スーパーマーケット主婦」林慎一郎

 万引きハンターとは違う意味で「なんだこりゃ!」だった作品。ずっと主婦の水元さんがかわいい。ココちゃんのためにパンパース抱える姿かわいすぎる。とにかくセリフが多い。独白というかモノローグというか一人語りというか。ずっとしゃべってる。そのエネルギーもすごいけど、そのエネルギーがとんでもない方向に転換して最後はココちゃんがドーン。文字通り、ドーン。いや、なんでやねーん!(ばくしょう)

 とにかくシュールで、でもシリアスで、なぜか笑ってしまった不思議な作品。癖になる味って、こういうことかも。

 

「AUTUMN WEATHER」村角太洋

 前情報としてパートと店長は実は……な関係、みたいなのを読んでいて、誰が書いたんやろ~と思ってたらまさかのボブさん。すごく自然な掛け合いで笑いが生まれるし、日常会話がおもしろいのがすごい。おもしろいことばっかり言ってるわけじゃないのに。たまに出てくるボケというか、この場合ただのイチャイチャだけど、そこがすごく楽しい。どの話でもそうだけど、皐月原さんの敏腕ぶりに惚れ惚れする。仕事ができる上司、最高。上司にしたい。空気をまったく読まずに恋バナはじめる山下くんも、順を追って(「ToTo」~「ボーイ・ミーツ・魚」~「M九〇星雲より」)情熱的になっているというか、まあこの場合は恋のせいかもだけど、そこがおもしろかった。

 女心と秋の空。やっぱり女は強い。ボブさんのささやかな主張のような気がしなくもない。

 

「集散離合」湯浅春枝

 離れ離れになったり集まったりすること。まさにこの「supermarket!!!」そのもの。兼業作家と店員のやりとりだけど、店員の横井さんがずっとやさしい。それがすごく救いだし、兼業作家の野々村くんも自分の葛藤を聞いてもらえてよかったんじゃないかと思う。誰だって、自分の力だけでどうこうできるわけじゃないし、前の自分のほうが優秀だと思うことがあると思う。わたしは特にそうだから、野々村くんの言う「変なやつじゃなくてもちゃんとできるんだって自分を納得させたい」って、自分に向けてもそうだろうけど、他の誰かを見ても同じことを思うものだよな、って。鬼才(奇才)に出会ったときの軽い絶望感は、結局自分で納得できるところまで行かないとどうしようもない。誰になんて言われても、賞を獲ってもだめ。そういうことじゃないんだよなぁ。

 それをずっと隣で相槌を打って話を聞いてくれる横井さん、本当にいい人。「そういう考え方もある」って言うやさしさ。これからを訪ねるやさしさ。見守るやさしさ。横井さんはきっと人と自分を比べて落ち込む人じゃないんだろうな。心がしなやかであたたかい人なんだろうな、と思った。

 エンディングで今までのキャラクターが出てくるのがすごく好き。ちゃんと「そのキャラクターのいいところ」が出るようになってるんじゃないかと思う。オープニングの一体感から、ひとりひとりへスポットが当たる感じ、まさに集散離合。

 

 あ、長い。長すぎるな。これでも書き足りない、話したりない気持ちになってるのに。まあいいか。この辺にしておきます。

 文章の下手なわたしが(あ、これは飯島に「弱さを盾にするな」って言われるやつだ)、パッションだけで綴った雑感でしたが、とにかくこれだけ書きたい気持ちになった、残したい思いがあったということです。それだけ伝わればいいです。

 本当に行ってよかったし、叶うならまた行きたいんですが、さすがに週明けぶっ倒れそうなので台本を読み返しながら余韻に浸りたいと思います。本当に素敵な作品をありがとうございました。