備忘録のようなもの

思うことのあれこれを記録しておくところ

「現代俳句」2021年4月号 雑感

 年度末と新年度って本当に誰でも忙しくなるんだな、と思う今日この頃。緊急事態宣言の発令なんかなくても、わたしの人生そこそこ緊急事態の連続だから間に合ってます。

 はい。そんな戯言はさておき、今月号です。仕事用の鞄(ちょっといいものを買った。新しい相棒)に忍ばせて昼休憩のときにちょこちょこ読み進めることにしたんですが、意外に捗ることがわかったので今後このスタイルで行こうかと思います。電車はだめだ。下向いてると酔う(読む前に気づけよ)

 ちゃんと読んだから、というか、まとまらなくて長くなってしまいました。興味あるところだけ読んでもらってもOKです。ごゆるりと。

 

 

特別作品「月夜の酒/成清正之」より

黄落になる寸前がジャズっぽい

 「っぽい」のであってジャズではないんだな。なるほど。しかも「寸前」に限定されているわけだ。なんだろう、この、ギリギリ「……わからんでもない」みたいな気持ち。わかる、とも言いきれないけど、わからないでもない。

 それはそうと、この句。めちゃくちゃひとりごとっぽい。

特別作品「リスタート/宮城留美子」より

波の音聴きたくて巻く春ショール

 さっきの句もそうなんですけど、この句もちょっと「おしゃれ」な気がする。わたせせいぞうの雰囲気。神戸港の「おしゃれ」ね。いや、横浜でもいいですけど。横浜知らんから(せやな)

 「波の音聴きたくて」という言い回しも、ジャズの句の「寸前がジャズ」という言い回しに似た感情になるんですけど、俳句ってささやかな気づきを詠むことが多いから、そういう視点という意味ではここがそのポイントになるのかな。

 ちなみにどっちの句も句会だと(わたしは)選ばないけど、こうして複数並んでいると「あ、おもしろいな」と思うから、作品群って興味深いですね。

 

今伝えたい俳句 残したい俳句/二月号 特別作品より 岩切雅人

着ぶくれて妥協しっぱなしなんだよ 中内火星

 そういえば、と思って見返したら、このブログでは武市忠明さんの句の感想を書いていたみたいですが、岩切さんは選んでないですね。ふむふむ。こういうこともあるからおもしろいですね。句会でもよくありますけど「あ、その句そんなふうに読むんだ~~おもしろいな~~」というアレです。これも二月号を読んだからこその楽しみです。イエス、ポジティブ。
 この句(および中内さんの作品)について岩切さんは「一句ごとに、主体を男・女に演出することば選び。」と評した上で、「≪男女の演出≫には疑問だが、実験として興味あり、着目したい。」と締めています。

ああ愛よ君のゲロに混ざるぼくのゲロ
あたしたち安易に行っちゃう寒林
いけませんあなたはわたしのマスク

 このあたりが「男女の演出」なんだろうと思うのですが、わたし全然気にしてなかったなぁ……と目から鱗でした。「ぼく/おれ/わたし/あたし」などの一人称って、結構、使うときに気を遣う(と思っている)ので、演出かどうかはさておき、潔く使っていて清々しいな、と思いました。「着ぶくれて~」の句は、着ぶくれるとそういう開き直りというか、「しょうがないじゃん重ね着したらこうなるじゃん」という、まさに妥協の具現化という感じ。改めて読むと「なるほどなぁ」って。勉強になるなぁ……。

 

翌檜篇(28)

 今回も関西青年部なのでよかったら読んでくださいね~~~~!(また宣伝)

亀虫の死の引つかかる廊下かな 山田祥雲

 亀虫の身に、なにがあったんでしょうか。不審死でしょうか。それとも、そもそも亀虫がいることがおかしいのでしょうか。なにがなにやらわかりませんが、妙にドラマチックなのは亀虫が死んでいるということだと思います。コナンくん呼んだほうがいい。

中華屋の水のかるさが解夏の舌

 で、これなんですけど。わからないんですよ。もうわからん。これはわからんやつです。「水のかるさ」「が」「解夏の舌」でしょ? 水のかるさ、が……? 中華屋の水のかるさってお冷のことっすかね。解夏の舌。解夏……の、いや、わからん(わからん)久しぶりに自分の読解力のなさというか、勉強不足を痛感しました。助詞、むずかしいよ~~~~!(大の字)

 

芭蕉枯れ尽くすにもまた力 三木基史

 そうっすね~~~~~という感慨深さを感じました。感慨深さって言ってんのに「そうっすね」ってなんだよ、という話ですが、第一声です。「枯れ尽くす」という言葉選びがいいなぁ。

地下鉄の色無き朝や蝶生まる

 「色無き朝」というパワーフレーズがなかなか渋い。地下鉄と蝶の取り合わせも、うん、渋い。パワーフレーズってそこだけ目について「あとはなんでもいけるんちゃいますの~?」ってツッコまれることが多いと思うんですけど、これは収まってる気がします。うん。始発前かな。静けさが好きです。

ストロマトライトから泡春動く

 調べました。ストロマトライト。藍藻類の死骸と泥粒などによって作られる層状の岩石だそうです。理科で習ったんだろうな、忘れてるだけで。そんな太古の産物から泡が出る。ロマンチックな合図ですね。

 

症状の有無水仙の有無尋ねる 岡村知昭

 対になる言葉って短い俳句の中に入れ込むの難しいですよね。でも、俳句だからやれちゃうんですよね。「症状」という強い言葉に「水仙」のまっすぐさが負けていない気がして、いずれにせよ「命」を感じさせる句だな、と思いました。

 一方、こっちはちょっと「ん~?」となったのですが。

これでよしウイルスに貌あればなお

 「これでよし」のセリフ感(っていう表現が合ってるかはわかりませんが)にも引っかかりつつ(表現の一種なので、ここはスルー)、「ウイルス」へのエモーショナルをまだ抱けないわたしとしては「貌あればなお」という締めくくりでさらに「ん~~~?」と首を傾げております。ポエジーとかロマンとか、そういうものばかり求めるわけでもないし、「パンデミックの下で」という表題(提出時のテーマ。詳細は三月号)に沿っているので、まさにテーマ通りだったんですけどね。

 ちょっとまだ「ウイルス」にはエモーショナルを感じられていない気がします、わたしの場合は。それが狙いなら狙い通りですね。「貌あればなお」なんなのかまでは読みきれなかったので、ここがわかると腑に落ちるのかも。

 

随想 テーマ「声」より 『一読者の声/平林柳下』

 俳壇も歌壇も若年層開拓に躍起となっているが、一体グループ(結社)の何が敷居を高くしているのだろう?

 ふと目に飛び込んできた一文。ここが気になって全文を読んでみました。後半のほうで、こんなことも書いてありました。

 また、ジャンルを超えた実作経験を重ね、相互効果の利に気づきだしている作者も思うより多いようだ。多ジャンルでの創作は、楽器演奏と同様、作り続けないと錆びるし、その分野で鍛えられた眼はそれを見抜く。

 わたしは短歌を始めると豪語したものの、結局ちっとも作れていない。錆びるどころか磨く以前の問題なので、痛いところを突かれたような、そもそも痛くもない腹を探られているような気がしないでもないんですが。

 いろんな批判の目にさらされる覚悟を持って作品を世に出す。これはまあ、誰でもそうです。ジャンルを問わず、常に「評価」には優劣どっちもあるもんです。もちろん、無関心もある。少なくとも、この現代俳句という会誌においては、優劣だけにとらわれず、「どんな人かは知らんが面白いことを言うなぁ」と思わせてもらえるので、わたしは随分楽しんでいると思う。少なくとも今年は(苦笑)

 平林さんも、冒頭で「積読になっていた」と言っているので、積んじゃう人が他にもいて安心しました。そうよね、読みたいときに読めばいいね。SNSと違って流れていかないからいいよね、紙媒体は。

 

ブックエリア 高岡修句集『凍滝』 「生との挌闘」安達攝

 珍しく、と言ったらアレですが、ここも読みました。それはまさに冒頭の、

 たとえば五十歳で死ぬということは、五十年を生きてきたということである。

 という一文に惹かれたから。俳句にせよエッセイにせよ、こうやってパラパラとめくりながらも、ふと目に留まる言葉、一文、というのが必ず存在する。そうやって出会うことを、わたしは大事にしています。

 さて、ここからさらに哲学が展開します。

 生死は常に同時進行であり、生きていることは死ぬことなのだ。生が終われば死も終わる。そこから死が始まるのではない。生が終われば、そこには死もなくなり、残るのは死体だけだ。

 この弁論法を理解すると、高岡さんの句がわかりやすくなるそうです。そう言われただけで「え、ちょっと気になるな」と思うわたしはめちゃくちゃにチョロい。チョロチョロのチョロです。でも、自分の価値観に刺さるものがあるとすれば、これはいい出会いですよね。

 重苦しいけど、どこか人間味を感じる。死生観はおそらく人間に与えられた価値観だと思うので、高岡さんの世界観(と言っていいのかは読むまでわかりませんが)が気になってきました。

 うしろ手に縛られて来る春の暁け

 春だって、もう連行されちゃうんだな。強制連行の春。確かにそうね。そういう気もしてくる感じ、あるな。

 

 長い! もうちょっとうまくまとめられるようになりたいもんです。今月は「それってどうなん?」と思う部分にも触れてみました。好きな句の話だけするのも楽しいけど、考えさせられたことも残しておきたいと思ったので。あ、否定的な意味ではないです。勉強中なので、いろいろわかっていない部分が多いなぁ、と気づかされました。

 来月号が楽しみになってきました。今年こそは、年末の「現代俳句の風」に投稿しよう……