備忘録のようなもの

思うことのあれこれを記録しておくところ

夜の藍

 大好きなコーヒーショップがある。昨年、わたしが人生ではじめて、マスターに「このお店は、いつできたんですか?」と声を掛けた場所。見つけたときにわくわくして、ドキドキして、思わずそう声を掛けてしまった。マスターは穏やかな笑顔でわたしの質問に答えてくれた。

「今年の三月なんですよ」

 コロナ禍という言葉をよく耳にするようになった頃だった。こんなときに、と思う反面、こんなときだからこそ、だ。ありがたいなぁ、と思った。おいしいコーヒーが飲めるお店が家の近所に出来た。うれしいハプニングだった。

 その店は、壁を使って小さな個展を開くことがあった。たびたび足を運んではコーヒーを待ちながら壁の絵を見て楽しんだ。気に入った絵のポストカードがあったら買って帰った。

 妹が「姉貴が好きそうな個展やるよ」と言うので、なにがなんでも行こうと思っていたが、年度末と新年度というごく一般的な理由で忙殺されてしまいなかなかいけなかった。手帳を捲り「この日にぜったいに行く!」と心に決め、予定と称して書きこむ。言霊って大事だ。雨も気にならないくらいにうきうきした日曜の昼下がり。長靴を履いて家を出たとき、わたしの予定は予定ではなくなった。雨天決行。

 店に行くと、壁一面に絵が飾られていた。「夜の形」という作品集だそうだ。青いキャンバスはすべて夜。わたしは夜が苦手だ。暗くて怖いから、いつもビクビクする。でも、絵の中の夜は静かで、どこか微かに光を感じた。ぼんやりと、夢の中のような真夜中。どこかで感じたような、感じたことがないような、月の夜。

 涙が出そうだった。でも、コーヒーを待ちながら泣くわけにもいかず、ぼんやりと絵を見つめる。赤いシールが貼ってあるものを見つける。おそらくお嫁に行くのだろうな、と思いつつ、作者の一色先生に尋ねると案の定。ですよねぇ、と思いつつ、このままなにも迎えないなんてきっと後悔するだろうな、と思い直し、お財布の中身を確認して(なんせそもそも絵を買いに来たわけではない)、「ねむれねむれ朝までねむれ」をお迎えすることに。大きなのもね、欲しかったんだけどね。えへへ。飾るところがないからね。とほほ。

 一色先生とマスターの人柄に仕事で荒んだ心もスッキリ。一緒にぶらぶら散歩してくれる妹に心の中でぎゅーっとハグ。素敵なつながりに感謝した日曜日だった。

 

 武庫之荘コーヒーがお気に入り。豆の種類や焙煎にこだわっていて、たくさん試飲できるのも魅力。マスターの雰囲気がお店そのものという感じ。居心地のいい大好きな空間。教えたいけど、教えたくない。そんなお店。

greenandcoffeeroasters.com

 

 深くて、やさしくて、でも、ちょっと曖昧に滲んでいるいろんな「あお」のファンになりました。鮮やかな色合いの絵も素敵です。いつか、自分の言葉に、こんな素敵な絵があったら……なんて夢を見てしまったり。

www.isshikimayumi.com

 

 余談。6月の人事異動で、激務が確定しました。実は「人生最大のピンチ」というより「人生最大のクライマックス」くらいの気持ち。これは大サビなのでは、と思っている今日この頃。この曲が終わったら、次の曲がはじまるだけなんだぜ。かっけーだろ(自画自賛すな)(まあまあダサい)(そういうとこある)(実はきらいじゃない)